National Panasonic R-288

松下電器産業(現パナソニック)が1976年に発売したラジオで、中波と短波帯4バンド、1IC 7TR という構成です。電源は単3電池4本、或いは 6V ACアダプター(センター・マイナス)、イヤホン(外部スピーカー)端子付で、当時 9500円でした。受信周波数は、MW = 520〜1610kHz、SW1 = 3.9〜5.1MHz、SW2 = 5.95〜7.3MHz、SW3 = 8〜10.1MHz、SW4 = 11.7〜15.45MHz です。北朝鮮による日本人拉致事件の工作員がこのラジオを使っていたらしいので(2017年4月15日の追記をご参照ください)、いつかはこの「歴史的な」ラジオを入手したいと考えていました。

さて、このラジオはネットオークションで入手したもので、外観は経年並みでかなり草臥れており決して綺麗ではありませんでしたが、電池ボックス内の液漏れ跡や接触金具の腐食、アンテナの折れなどもなく、掃除をしたらそれなりに綺麗になりました。出品者の説明では中波はOK、短波帯は受信不可とのことで他に競合者がおらず、幸運にも開始価格のまま安く落札できました。中波帯が可なら短波帯も大丈夫だろうと目論んで落札したところ、思った通りで短波帯も頗る調子がよくて嬉しくなりました。

このラジオを触ってまず最初に感じたことは、選局ダイアルの手触りが抜群に良いということです。これは特筆すべき美点で、バックラッシュを全く感じさせない極めて優れたダイアルは非常に選局がし易く、経年劣化を考慮しても周波数の目盛がよく合っていて、この点においては最新のアナログ選局方式の安価な中華ラジオは全く足許にも及ばないでしょう。実に精密感あふれる優れたダイアルで、このクラスの一般的なラジオとしては異例な程高品質です。更に肝心の感度も抜群で往年の銘BCLラジオと同等かそれ以上、しかも内部雑音の低さと相俟って経年劣化を全く感じさせません。同社のBCLラジオ最終機RF-B11より確実に性能は上です。誠に不謹慎ではありますが、拉致工作員が業務?で使用していた事も首肯できます。バンドスプレッド方式故の受信周波数の制限はありますが逆に選局しやすく、主要な周波数帯は網羅しているため普通に使う分には全く問題ありませんし、小型ながら短波放送受信の醍醐味を存分に味わう事の出来る、実に素晴らしいラジオです。

【2017年4月15日追記】 夕刊フジの記事「北、工作員に「乱数放送」 韓国や日本でテロ指示か」に「1985年に北朝鮮の補助工作員宅から押収された乱数表や通信機器など」という写真があり、SONY CF-5950(スカイセンサー5900のカセットテレコ付きバージョン)と本機 National R-288(黒いソフトケース付き)、あともう一台メーカー不明の大型短波ラジオ(ソニーにもナショナルにも同じような外観のラジオが見当たらないので、当時丸善無線や通販などで売られていた香港製のマルチバンドレシーバーかも知れません)が写っています。

2013年10月9日 記

短波ラジオTOPへ戻る