三洋電機 SANYO PULSAR パルサー RP8700

最近漸く念願の本機(中古品)を手に入れました。入手した機体の外観は経年相応でしたが、最近製造された手持ちのラジオと比較したところ、幸いな事に電気的特性の劣化、つまり感度や選択度、音質の低下が殆ど感じられない(さすがに周波数のズレはありましたが)極めて状態の良いものでした。純正品のACアダプターも付いていたので早速使ってみましたが、これは本当に良いラジオですね。ペットネームである「パルサー」は「非常に正確な周期で電磁波(パルス)を放射する天体」のことですが、設計者或いは営業部がこの製品に込めた思いが伝わってきます。以前から、三洋電機というメーカーは地味に良い製品を作っていると感じていましたが、このラジオを当時指名買いした人はかなりの目利きではないかと思います(それだけに、パナソニックに吸収合併された後、事実上消滅してしまったのが本当に残念で堪りません)。私はBCLブームの頃、メーカーブランド信仰?に毒されており、2大ブランドであったソニーとナショナル以外は殆ど選択肢にありませんでしたが、こんなに素晴らしいラジオがあったとは不覚でした。RP8700はTRY-X 1600とともに特にお気に入りのBCLラジオの一つになりました。

 

まず、RP8700は本体の色使いが明るいので見ているだけで楽しい気分にさせてくれます。他のBCLラジオに比べるとメカっぽさが少なく、スイッチやつまみ類もあっさりとしていて全体的に多少チープな感じはしますが、ツートンカラーの下半分グレーの部分には横にラインが入っていてなかなか精悍に見えますし、開口部から見えるスピーカーのセンターキャップが銀色でデザイン上のアクセントにもなっています。また要所要所に目立つ色が配されて、チューニングメーターは緑系統、バンド切り替え表示はオレンジ色と大変見やすい色使いです。チューニングダイアル、フィルムダイアル窓、チューニングメーター、感度調節つまみ、バンドセレクター、スピーカー開口部が全て円で構成されていて柔和な表情を持ち、デザイン的にもよく練られていると感じます。いくらデザインが良くてもラジオとしての性能がダメなら問題外ですが、RP8700は普通にBCLをやる分には全く文句なく非常に高性能です。本体裏面にある定格仕様欄の製造者表示(三洋電機創業者及び歴代社長の井植(いうえ)家を表す井桁マーク)を見ると、関連会社のOEMではなく三洋の自社工場製品だとわかります。

 

BCLラジオの一番重要なインターフェイスであるフィルムダイアルが非常に見やすいのはいいですね。クーガ118やTRY-X 1600のフィルムは黒地に文字が青色や緑色なので今一つ視認性が良くないのですが、RP8700は白く印刷された数字や目盛りがとても明るくかつ周波数の幅が広いので選局がしやすいです。視認性の良いフィルムダイヤル表示とともにチューニングダイアルもバックラッシュを余り感じさせない、このクラスのラジオにしては非常に良質な造りで、しかもスピードが2段階に切り替えられるためSLOWモードにするととても快適にファインチューニングが可能です。まさに痒いところに手が届くという表現がピッタリのパフォーマンスを示します。中波の感度はもう一つですが短波帯は感度が高く、私が持っている同じシングルスーパーのクーガ118とほぼ同等で、バックグラウンドの雑音が少なく高音質なので118よりも高感度に聞こえたりします。周波数の分割の仕方も合理的で、所謂ゼネラルカバレッジではありませんが放送聴取に必要な帯域は充分に確保されており特に不満はありません。逆に、欲張って全帯域を詰め込んだりすると、目盛りの幅が狭くなり非常に選局しにくくなってしまうので(その意味では、クーガ118は選局しにくいです)、あまり必要性のない周波数帯をカットしたのはまさに合理的といえます。このラジオが現役商品だった頃、残念ながら私のような頭の悪い子供はその合理性を理解することができませんでした。(笑) サンヨーにはOTTOというオーディオ専門ブランドもあったせいか(カセットテープデッキ用に独自の高性能ヒスノイズ低減システム"SuperD"を開発したり、音響用に特性の優れた電解コンデンサー(OSコン)を発売したりしていました)、このRP8700も聴きやすくなかなかのHiFiサウンドですが、これは実用上問題のない範囲内で選択度を若干広めにとることにより音質優位に設計している感じがしますし、この辺のバランスの取り方が絶妙だと思います。まず、比較的受信しやすい海外短波日本語放送を良い音で楽しんでもらって、DXする場合はナローに切り替えて使ってね、という設計者の意図なのでしょう。そういう事もあってかバンドワイズスイッチは非常に効果があり、ナロー側にすると隣接局をかなりよく分離してくれるので実用上全く問題はありません。通信機ではなくあくまでも家電製品なので選択度はこれで充分だと思います。ナローモードにしても特に音質が悪くならない点も評価出来ます。また、このクラスのラジオには珍しく標準ステレオジャック(出力はモノーラル)が付いていて、変換アダプターなしでオーディオ用のステレオヘッドフォンプラグがそのまま接続出来るのは実に便利で重宝します。いずれにしても、私が最初に買って貰ったクーガ118の半額以下の値段でこの性能なのでコストパフォーマンスは圧倒的に高いです。べた褒めですが、実際に触れてみて本当に素敵なラジオだと思いました。当初からRP8700でBCLをやっていたら、かなり幸せだったかも知れません。取り敢えず、BCLラジオの蒐集はこのRP8700を最後に打ち止めにします。(笑)


附属のACアダプターには注意書きのラベルも残っていました。

純正ACアダプター D9-8700 の定格

定格電圧:100V、 定格入力容量:5VA、 定格周波数:50-60Hz
定格出力電圧:DC9V、 定格2次電流:DC300mA、 無負荷時出力電圧:10.37V(実測値)
出力プラグ:センターマイナス