78rpm盤をメインシステムで再生する場合、その度にカートリッジを交換してアームの高さや針圧を合わせ直したりアンプにモノーラルモードがないためパッチベイで片チャンネルの出力を2分配したりと色々と面倒な手続きが必要なので、本格的にじっくりと聴く場合やハードディスクにダビングする場合を除いて手軽に再生出来る機材が欲しくなってしまうのだ。多少の音質低下は全く問題にしないので低価格で兎に角簡便に演奏できるターンテーブルがないか近所の家電量販店に見に行ったところ、VestaxのHandyTraxとIONのiPTUSBというポータブルターンテーブルがあった。ION(アイオン)というメーカーの名前は今まで一度もきいた事がないし何となくデザイン的にも胡散臭さ(笑)が漂っていた(笑)ので即座に選考対象から外れた。(^^; 残るはVestaxの製品だが、こちらはDJ用のオーディオ機器や何故か78rpm盤再生専用のカートリッジ(サファイヤ針で何と4mil)まで発売しているので信用出来そうである。ただ、量販店の価格だと14000円程度とちょっとお高いのでネット通販やオークションで中古品の安いものを探す事にした。オークションには間断なくHandy Traxの中古品が出品されていて何度か応札したけれど、いつも自分が許容出来る金額よりも遙かに高い値段にまで競り上がってしまうので、商品の細かい状態はもとより何年使ったのかもよくわからないような中古品にそれだけの金額を出すのであれば、あともう少し足してメーカー保証付きの新品を買った方が安全だしなあと考えて結局入手出来ずにいた。そんな時 ION iPT01という、現行品iPTUSBの先代機のジャンク品が出品されているのをネットオークションで見つけた。これは出力用のUSB端子が付いていないだけでその他の部分は現行品と全く同じでものである。量販店店頭で見た時には速攻で選考対象外になってしまったメーカーではあるが、ネットで検索してみるとどうやら中身は一部分を除いてHandy Traxとほぼ同じものらしい。ついでに言えば、これまたDJターンテーブルで有名なNumarkのPT01とはボディーの配色や表記されているメーカー名が異なるだけで全く同じ製品である(しかもよりメジャーなNumark銘の方が後発らしい)。そこで量販店の店頭でVestax、ION両機を再確認してみると、ボディーの外観はデザインが異なるので全くの別物に見えるが、細かい部分をよく見てみると確かに同じ部材を使っているのだろうということは容易に理解出来た。ということでIONの製品が俄然選考対象に入ってきたので応札する事にした。う~ん、別ページにも書いたが先入観というか、無名な(或いは雑誌などの媒体で評判を聞かないような)メーカーの製品へのある種の拒絶反応は、わかってはいるけれどやはり購買しようとする商品を選択する上でどうしてもマイナスに働いてしまう。何だかんだ言っても広告の力は絶大で、ネットやメディアでよく紹介される(話題に上がる)ものは特に善し悪しを判断することなく安易に買ってしまったりする。気を付けなければなるまい・・・。(^^;
オークションでは一部不具合ありのジャンク品(動作しなかったらその時は諦めてね)としての出品だったので最終日まであまり値段が上がらなかった。出品者の説明を読むと、自分だったらすぐに修理出来そうな不具合だったので、万が一の事も考えて、まあ2000円までだったら損してもいいかなということで入札してみた。オークション終了直前の最後の数分で若干値段が上がってしまったが結局2000円まで行かずに安く落札出来た。(^^) 品物が届いて本体を見てみるとシールが貼られていたり埃が積もって使用感があったりしたのできれいに清掃してからの修理作業に入った。結局、半田鏝を使うことになったが、不具合自体は実に単純なものだったので元手¥0ですぐに機能を回復し、また標準添付品とは別に新品の交換用カートリッジ本体まで付属していて本当にラッキーな買い物であった。(^^)
▲本体は表面が金属製(アルミ?)なのでなかなか高級そうに見える。プラッターはEP盤と同じ大きさである。
▲今までに見た事もないメーカー名なのでついつい敬遠してしまう。(笑)
▲カバーを着けた外観はスマートでなかなか美しい。小型で尚且つ金属製の取っ手が付いているので持ち運びにも便利だ。収納スペースを取らないのも良い。
細かい部分を見てみる
プラスチック製のプラッターには滑り止めのフェルトが張ってある。プラッターの周囲には4箇所X字形に同じ黒いフェルトが張ってあるが、これはおそらくプラッターに10~12インチ盤を載せた際に取り扱いミスなどでレコード盤が直接金属部分に触れて傷が付く事に対する配慮なのではないかと思われる。センタースピンドルは固定されている(回転しない)のでレコード盤の中心穴や軸に接するプラッター部分が擦れて減ってしまわないか少し気になる。アームはストレートタイプで針圧印加はバネで行うダイナミックバランス型だ。アームをアームレストから外してレコード盤の方に動かすとプラッターが回り始めアームレストに戻すと回転が止まる。アームレストはロックされしっかりとアームを保持する構造なので、持ち運んでいる時にアームが外れあちこちにぶつかって損傷してしまう事もない。カートリッジは一応アームから取り外す事は出来るが本機(または同等品)専用のもので、何とカンチレバーがプラスチックで出来ている(Handy Traxは金属製のようだ)! MM方式のようにカンチレバーの根元にマグネットが付いている訳でもなく、そのプラスチック製カンチレバーが更にカートリッジ本体の振動子(これも多分プラスチック製)に接触して音溝の動きを発電部に伝えるという何ともトリッキーな仕掛けである。金属に比べて遙かに柔らかい材質のプラスチックをカンチレバーに使うなんて、更にプラスチックカンチレバーを受けるグレーの部品はゴムのように柔らかく、常識で考えたら振動の伝達ロスが大きすぎて果たして使い物になるのだろうか? という疑問が沸々と湧いてくる。(笑) このカートリッジ、本体の刻印(表記)を見る限りでは日本製である。一体どこのメーカーが作っているのだろうかと疑問だったが、最近氷解した。現在は株式会社 中電という群馬県のメーカーが(1996年から)製造しているCZ-800という製品である。本機も含めて今はなきVestaxのHandyTrax、コロムビアの音聴箱、その他諸々の簡易なレコードプレーヤーには(OEM販売しているメーカーは認めないだろうが)全て同じものが付いている。それ故、交換針も共通で使用できる(パチ物も勿論あるようなので購入時には注意されたい)。針に付いているΦのマークは中の字らしい。
カートリッジの外観は何となくT4Pに似ているが、勿論全く互換性はない。針先チップは結構大きく、透明な円錐(コニカル)針が付いている。針の材質はサファイヤで、発電機構はセラミック圧電式である。
上の画像はコントロール部で、回転数が嵌め殺しの一般的なターンテーブルの場合、回転数が経年でずれてしまうと一旦本体を分解して調整しなければならないのだが、このターンテーブルには手元に±10%のピッチコントロールが付いているで本当に有り難い。この中古品は当初約1目盛り分回転が早めだったのだが手元ですぐに調整出来るので実使用上全く問題はない。また、本機にはアンプが内蔵されているので別途アンプがなくても取り敢えずは内蔵スピーカー(モノ)で音を聴く事が出来るし、ヘッドフォン端子は標準ステレオプラグとステレオミニプラグ(3.5)の計2つが標準装備されているので、わざわざ変換プラグを使わずとも殆どのヘッドフォンやイヤホンを直接繋ぐ事が出来、極めて使い勝手が良いのは高く評価出来る。
実際に音を聴いてみる
78rpm用の交換針は別売で現在は手元にないため、取り敢えず普通のLP、EP盤で再生チェックをしてみた。まず最初にリードインに針を降ろした時に出る無音溝部分のノイズはハイファイオーディオ用のターンテーブルで再生するのとは全く異なり、独特の固い(ボンボンと箱を叩いたような)音が出たので「こりゃダメかも~><」と思ったが音楽が始まると活きのいい音が聴こえてきた。私が一番問題にするピアノの強いアタックも、一発目からザザザッと歪むだろうと予想していたが、強音でも非常にきれいに聴かせてくれたのは意外だった。いやぁ、これはなかなかいいではないか。改めて言う迄もなく、周波数レンジ・ダイナミックレンジともに実用的な範囲はクリアしているものの、やはり何れもレンジは狭いし音質的にピュアオーディオのハイファイ再生とは全く異なる。安いオーディオ用ターンテーブルの代表格であるオーディオ・テクニカのAT-PL30に比べてもやはり音質的には及ばないもののクラシックもまあ何とかいけるし、本機の出す音自体は自分としては決して嫌いではない。ということでLP、EP再生については及第点を差し上げよう。また、LINE OUT端子から外部アンプに繋いで音を出すより、本機のヘッドフォン端子に直接ヘッドフォンを繋いで聴く方が音の鮮度が高い。本体底面には簡単なゴム足しか付いていないので外部の振動には要注意である。78rpm再生については交換針を入手したら試してみる予定である。
分解してみる
さて、よく聴いてみると、若干音揺れが感じられた。ベルトドライブなのでベルトがヘタっている可能性とサーボ回路の不調と両方の可能性があるので、ものは試しと裏蓋を開けてみた。
▲部品点数が少なく兎に角簡単な構造である。中は殆ど空洞といっていい。(笑)
アンプと速度調整VR(可変抵抗器)の載ったメイン基板。3つあるVRは上から33/45/78rpm回転調整用である。圧電式カートリッジなのでフォノイコライザー回路は無い。
整流回路を含んだ端子台基板。ACアダプターの出力はACなので、この基板で整流平滑してからメイン基板に電源を供給している。同じ電圧だからといって別のDC出力のアダプターを繋がないように、また本機付属のアダプターをDC入力の別機器に接続しないように注意が必要だ。それぞれの入出力端子は基板に半田で直付けされているだけで取り付け強度は殆ど期待できないので、ケーブル類を頻繁に抜き差しすることは控えたい。
▲内蔵スピーカ。小型で低音はあまり出ないがちょっと聞くには充分だ。
尚、スピーカーの空間はバスレフになっており低音を少しでも出そうという意図が感じられる。
▲アームに連動するモーター開閉用リミット(マイクロ)スイッチ
▲これ一つで各回転数に対応するサーボモーター。
プラッターを外したところ。左上にモーターの軸(白いプーリー)が見える。3つあるモーター取り付けネジには振動防止用のゴムを履かせてある。
プラスチック製のプラッター。内側の輪にゴムベルトを掛ける。軸の根元には黒っぽいグリースが塗布してある。
大まかにチェックしてみたところ、サーボ系に特に異常はない感じであるが、経年でゴムベルトが若干伸びていたと想像されるため、音揺れの原因はどうやらベルトのようだと目星を付けた。しかし、プラッターを外すためにはセンタースピンドルに嵌っている金属製の爪を外してやらなければならず、またこれが結構固くて外すのに一苦労するので、オーディオ・テクニカのAT-PL30のようにユーザーがベルト交換する事を全く想定していない設計だ。説明書にもベルト交換に関する記述は全くない。私はAT-PL30の場合、ゴムベルトの伸びを少しでも遅らせるために、使用しない時には必ずベルトをモーターのプーリから外している(無駄な努力?)が、本機では気軽にプラッターを外せないので、事実上それは出来ない。ベルトドライブは経年でベルトが伸びてしまいスリップするようになるので定期的にベルトを交換する必要があるのだが、その度にいちいち修理に出すのはコストや手間を考えるとどうかと思ってしまう(本機と同じような構造であるコロムビア(現デノン)の卓上型レコードプレーヤーGP-17の取扱説明書にはゴムベルト交換はメーカー送りになると書いてある)。実はベルト交換のみならず針交換(交換の仕方とか交換針の型番)に関する記述も本機の説明書には一切ないのだが、実際に交換針は発売されているし、サファイヤ針だと短時間(50時間くらい)でダメになって頻繁に交換しなければならないのだからこの点は非常に不親切だと感じる。
また、中古品の場合は回転数が正確に合っていない場合が殆どなので、裏蓋を開けたついでに回転数のズレも補正した。調整する時に気を付けなければならないのは、プラッター上に何もない状態と、レコード盤を乗せて針を降ろした状態とでは回転数がかなり変わるという事である。つまり実使用状態では、プラッターに何も載せない場合と比べて回転数がかなり落ちるので、回転数を正確に合わせるためには実使用状態のままで調整用VRを廻す必要があるのだが、体勢的にこれが非常にやりにくいのとVRの動作が微妙でちょっと廻しただけでも回転数が大幅に変わるので、最適点に持っていくまでに結構手間と時間が掛かってしまう。まあ、これも一般ユーザーが手を入れるべき事ではないから仕方がないのだが・・・。
その後色々と調べたら、どうやらVestaxのHandy Trax以外にも本機と同じ部材を使用しているものが多数あるようだ。というよりこの手の簡易型プレーヤーは殆ど例外なくどれも同じカートリッジが使われておりターンテーブルの抜け止め防止ピンも同様であるから、キャビネットのデザインが違うだけで(例えば上に挙げたコロムビア(現デノン)の音聴箱をはじめ、見たこともないブランド名で販売されているUSB端子付きプレーヤー等々)中身はほぼ同じものと考えられる。
本機の唯一で最大の欠点はレコード盤の内周と外周で若干回転数が変わることである。駆動モーター自体のトルクが弱い上に、プラスチック製のプラッターは径が小さく非常に軽いので慣性モーメントを利用出来ない事に加えて針圧が大きい(重い)ので、前述したように針をレコード盤に落としただけで回転数が変化してしまう程である。それ故、線速度の速い外周部では音溝と針先の抵抗が大きくより強いトルクが必要であり、内周になればなる程線速度が遅くなるのでモーターへの負担が減って回転が徐々に速くなるのである。これはもう本機の構造上の問題なので如何ともし難い。恐らく、この手のポータブルタイプのターンテーブルはみんな同じだろう。私が耳で聴いた限りでは外周に比べて12~25セント程内周が早くなる。気にならない人には問題ないのだろうが、私にはどうしても気になってしまうレベルである。それでも徐々に変化していくだけにまだ何とか耐えられるのではあるが。
【追記、というより備忘録】
ターンテーブルベルトはオリジナルの寸法を計測(二つ折り)すると約15cm(伸びていて16cm弱くらいあった)、幅4mmなのでナガオカの品番・B-15(全長30cm・幅4mm)が丁度合うようだが価格が2000円と高いのでよく行く秋葉原のパーツショップ千石電商で大体同じサイズのものを探したら<平ベルト φ98×0.5×5>という製品があり、物は試しと思って購入した。買ったベルトを取り付けてみると実用上問題のないレベルまで音揺れ(ワウ・フラッター)がなくなったので取り敢えず交換成功である。千石電商のベルトは1本300円と気軽に買えるので本当に有り難い。その後1ヶ月程経過してからレコードをかけてみたところかなり音揺れが出るようになった。やはり寸法がキッチリ合っていないと駄目なのだろうということで、結局量販店からメーカーに部品としてベルトを注文した。届いた純正ベルトの寸法を測ってみると長さは二つ折りにしてキッチリ15cm、幅は4mmということでナガオカB-15と同じ寸法だった。早速取り付けて聴いてみると音揺れも殆どなくなり安定して回っている。やはり純正品を使うのが最良である。
2019年10月7日最終更新