DEGEN(徳勁) DE1103(愛好者3号)

最近の市販品ラジオの殆どは中国製で、日本のメーカーが中国の自社あるいは提携工場で生産した物はもとより、中国のメーカーが独自に設計、製造した製品も多く輸入されるようになってきました。特に海外短波放送が聴ける国産BCLラジオは壊滅的で、ソニーが数機種製造しているだけです。パナソニックも1機種だけ現行品がありますが簡易型の台湾製ですし、売っているところが少ないのでなかなか手に入りません。(パナソニックのRF-B11は生産中止になりました。)純国産高性能BCLラジオを今も作り続けているソニーさんにはただただ感謝するのみです。現状ではBCLラジオの生産拠点は既に中国に移ってしまっており、以前は安かろう悪かろう的なものが多かったのですが、最近は嘗ての日本製品に近いラジオを陸続と生み出しているというのも事実で、DEGEN(徳勁)社のDE1103もそんなラジオの中の一つでしょう。

このラジオに関してはネット上で紹介しているサイトが多く、概ね高評価ということで遅ればせながら購入してみました。附属の純正ACアダプターは220V仕様なので、輸入販売元が小型の昇圧トランスを付けています。しかしこのトランスは単純に電圧を2倍に昇圧するだけなので日本国内で使うと出力は200Vにしかならず、それを附属の(220Vで使うことを前提に設計された)純正アダプターで使うと最終的なDC出力は定格の8Vに満たないという事になります。まあ微妙な差ではありますが、それでもこのラジオを直接駆動する分には殆ど支障が出ないでしょう。しかし附属のニッケル水素 電池をこのラジオ本体で充電する場合には電圧不足で問題が出るかも知れません。ということで附属の充電池は別途ニッケル水素用充電器で充電した方が使い勝手の面からも宜しいかと思います。

配色や質感などデザインはなかなか良いとは思いますが、よく見てみると、側面の噛み合わせの成形などまだまだ駄目だなと感じますし、ちょっと力が加わっただけで外装(表面)が凹んでしまうヤワさは総合的な品質の面からちょっと絶望的だと思います。特に細かい事を気にする日本人の気質には全く合いませんね。結局は殆どソニーの往年のラジオのエピゴーネン(パクリ)といってもよく、嘗てのソニー製品の完成度の高さを改めて思い知ります。テンキーボタンは一直線状に並んでいるので使い勝手は今一つですが液晶画面の大きさから考えるとやむを得ないのでしょう。でも現行のソニー製品が事実上電卓のように数値入力しかできない点に比べれば、ダイアルノブを回して「昔風に」選局する機構を採用した点はアナログ的な感覚を残したという点で大いに評価することが出来ます。但し、ダイアル選局は放送バンド内でのループになるため全帯域に亘ってのシームレスな選局は出来ません。この点は放送バンド外に存在するかも知れない怪電波を捉えたい自分にとっては非常に大きなマイナスポイントで、折角のゼネラルカバレッジ(ここでは長、中、短波連続カバーの意)の魅力が半減です。

このラジオの性能については、「BCLラジオ」としては感度も特に悪くないとは思います。高評価サイトの記述にあるような滅茶苦茶高感度という事ではありませんが普通に短波放送を楽しむ分には特に不満はありません。往年(黄金期)の日本製BCL機(SONY ICF-5900)とほぼ同等と言っていいと思います。但し、中波帯の感度は低い感じで中波DXには向かないでしょう。他のサイトでは中波の感度が非常に良いという記述もあったりしますがどうなんでしょう、非常に疑問ですね。私は中波帯の感度チェックには自宅から少し遠い場所から高速道路の渋滞情報を1620kHzで放送しているハイウェイラジオをよく利用しています。非常に微弱な電波なのでこれが受信できるかどうかで高感度ラジオかどうかを判別しているのです(2千円程度の安物中華ラジオでは勿論全く受信できません)が、特筆すべきは本機ではこの放送を受信しようとすると何と丁度半分の周波数(810kHz)で出ている大出力の東京横田基地の米軍放送が「お化け」(イメージ)として優先的に聞こえてきてしまうのですよ(笑)。 現行品であるSONYのICF-SW7600GRや大昔のスカイセンサー、ナショナルクーガはもとよりその他の国内メーカー製の高感度ラジオでは絶対に聞こえない(聞こえてはいけない(笑))モノが本来聞こえなければならない電波を押し退けてガンガン聞こえてしまうのです。この時点で本機はダメだと思いましたね。尤も中国オリジナル製品なので個々の製品の性能(調整)のバラツキも多く、一概に一刀両断するのもどうかとは思いますが、私の個体に関しては中波の感度は低めでお化けは出るし、とても40年前のICF-5900には足下にも及びませんでした。この点に関して言えば中国製品は未だに信頼性に欠けますね。製品自体の歩留まりもさることながらスーパーラジオは最後の調整が肝なので、特に本機のように売りっぱなしで修理などのアフターサービスが一切望めない商品はQC(品質管理)をもっとしっかりやって欲しいと思うのは私だけではないと思います。また、外部アンテナ端子に自作のケーブルアンテナを接続したところ、バックグラウンドの雑音のみが大きくなってしまい肝心の感度は殆ど変わらなかったので(勿論アンテナのインピーダンスマッチングが取れていないということもあるのでしょうが)、外部アンテナを使った感度アップはどうも電気的に飽和状態のようで(元々無理して目一杯感度を上げている印象もあります)余り期待出来そうにもありません(因みに同じアンテナを手持ちのソニーICF-7600Dに接続すると確実に感度アップします)。まあ何れにしてもこれまでの考察から本機に対する高感度という評価は恐らくRFアンプの利得を発振する寸前にまで上げた一種の「ドーピング」に起因するものではないかと邪推してしまうんですよね。(笑) しかもPLL方式のせいで内部雑音がかなり大きく、スピーカーの音質も非常に宜しくない(音が割れ気味)ので、状況によっては聴取が非常に辛い場合もあります。昔のICF-7600Dに比べるとPLLに起因するノイズは明らかに本機の方が大きいと感じます。スピーカーの音も「良い」と記述してあるサイトが結構ありますが、私のはハッキリ言って悪いです(決してピュアオーディオ的なHiFiサウンドを望んでいるわけではありませんので念のため)。とてもこれで音楽を聴こうなんて思えません。他サイトの記述が真実だとすれば確実に当たりはずれがあるようですね。選局ダイアルを回した(周波数が変わる)時に出るブツブツというノイズも勘弁してほしいと思います。また、バンドワイズスイッチ(音質切換も兼ねている)をナローにしても劇的な効果はありません。私には単に音質的に高域をカットしているようにしか聞こえず、隣接した局の混信状態が殆ど改善出来ないのでちょっとガッカリしました。それにカットする周波数が中心に対して上下非対称なのも気になります。これならサンヨー・パルサーの方がよっぽど好印象です。

それに加えてこのラジオの最大の欠点はボリューム(音量)調節でしょう。部材節約のためかチューニングダイアルとボリュームノブを兼用しているので、ボリュームを変える時には本体前面左上にある小さなボリュームモード切換ボタンをいちいち押してからチューニングダイアルを回すという非常に回りくどい事をしなければなりません。短波放送を選局している時にはいきなり強烈なジャミング(妨害電波)を拾ったり、放送局の遠近や出力差によって音量が急激に変化することが多いので、その度にボリュームボタンを押して操作するとなると、ごく僅かな時間ではありますが聴きたくもない雑音を大音量で聴かされたりして非常に不愉快な思いをします。どうしてこんな設計にしたのか全く理解に苦しみますね。それから、時々ボタン類を押しても何の反応もなくなる(フリーズする)時があってリセットボタンを押して復旧させるのですが、その際ボリュームが最大値になってしまい復旧後電源を入れた時に猛烈な大音量が出て特に夜など近所迷惑も甚だしいです。この辺の設計が実におざなりで日本国内メーカーの設計者であればこんなクレーム頻発必至な発想はしないでしょう。大体、ソニー製品(PLLシンセサイザー機の7600D)の場合にはこのようなフリーズは一度も経験したことがありません。また、液晶画面の多くの部分は殆ど意味のない「目安のバー表示」に割かれている(嘗てのソニー製ラジオに同様のものがあった)ので、画面の面積を狭くしてもいいのでその余ったスペースにボリュームつまみを装備して欲しかったですね。また、役に立たないバー表示にこれだけのスペースを割くのであれば、現状の半分の面積の液晶で周波数、メーターバンド表示、時刻、メモリー番号、電波強度、電池残量を同時に表示することは充分可能なので、その方がどれ程使い勝手が良かったかと思います。因みにバー表示は非常に大雑把でこれで周波数を読みとることは全く不可能です。このラジオには長波の受信周波数の下限と短波上限受信周波数の拡張(隠し)コマンドがあり、実際にやってみましたが殆ど何も受信出来なかったので実際に拡張されているかどうかは?です。例えば、拡張領域にある長波の40kHz(電波時計の校正に使われるJJYの信号)をSSBなども使って色々と試してみましたが結局何も聞こえてきませんでした(因みに手持ちのSEIKO製電波受信確認用テスターでは常にJJYの信号音がちゃんと聞こえてくるのですが)。それに何故か長波の拡張領域からTBSラジオが聞こえてきたりします。勿論、TBSが長波で電波を出している筈はないので内部回路から偽信号が出ているか、ディスプレイ表示とは全く異なる周波数を受信しているのでしょう。また、30MHz以上の拡張領域でも各ローカル中波放送が周波数の低い順に聞こえてきたりと周波数表示は全然信用出来ません。恐らく数字の表示がそれらしく出るだけで受信内容は滅茶苦茶だと思います。これでは全く意味がありません。元々イレギュラーな使い方なので文句を言う筋合いなどないんでしょうがいかにも中国製品らしい摩訶不思議な挙動です。まあ、殆ど使わないのでどうでもいいですが。この拡張領域については改めて検証してみました。結果は下記の通りです。


●隠しコマンドによる拡張領域について

周波数拡張の隠しコマンドについてももう一度試してみました。長波の拡張領域に入るには、先ず1711kHzをテンキーで入力し確定した後、下方へ自動スキャニングさせます。拡張領域に入ったら適当なところでスキャニングを止めてダイアルを廻し、好みの周波数値にしてメモリーに記憶させれば次回からはダイレクトに拡張領域に入れます(30MHz以上の拡張方法については他のサイトをご覧下さい)。

先ず、長波の領域についてです。外部アンテナ無しだと殆ど何も受信できないので自作外部アンテナを使用しました。4kHz付近では何故か朝鮮中央放送と北京放送が重なって聞こえて来ます。10kHz以下は動作が滅茶苦茶で全く駄目ですね。40kHzでは辛うじてJJYらしきものが聞こえました。ただし、不定期に雑音(他の電波?、恐らく本機自体が発する何らかのイメージ、偽信号)が被ることが多いので、かなり時間と根気がないと判別できません。54kHzではTBSラジオ(954kHz)の偽信号が入ります。60kHz付近は雑音だらけでJJYはまだ受信できていません。兎に角、この拡張領域は雑音が多くて殆ど実用になりません。音声ファイル(MP3)DE1103で受信した40kHzのJJYらしき信号

30MHz以上といわれている拡張領域について

これは単に10MHz台の周波数を受信した結果と全く同じでした。つまり5桁目(万の桁)の数字(表示)が違うだけで、その数字を1に置き換えたものと同じということです。30MHz以上の領域を受信しているわけではなく拡張もされていませんでした。これらは私の機体での結果です。他の機体でも同様の結果になるとは限りませんので悪しからず。いずれにしても過度に期待するとガッカリしますので、評価の良い記述を鵜呑みにしない方がよいでしょう。

何故、これら拡張領域が隠しコマンド、つまり正式機能としてフューチャーされていないかというと、あまりにもイメージ、偽信号、雑音が多すぎて、さすがの中国人もこれでは拙いと考えたからではと邪推しています。(笑)


液晶の画面デザインには不満がありますが、基本的な受信性能に関しては実売価格の8000円程度から考えると特に文句はありませんし、この値段でこれだけの性能が出ていれば充分でしょう。特にSSB(アマチュア無線など)の受信については安定していて、私が持っている嘗てのソニーのPLL機であるICF-7600Dより良いです。また、7600Dのようにシステム記憶保持用の乾電池で周波数を記憶している訳ではないので、電池を抜いても登録してある周波数が消失しないのもよい点です。但し、ソニー製品のようにテンキーに割り振ることは出来ず、メモリー呼び出しボタンを押してチューニングダイアルを廻して選択するので、多数記憶していると目的の周波数に辿り着くまでが大変で、途中でどれがどれだかわからなくなります。この辺が寸足らずで、結局よく受信する局の周波数をメモした紙を手元に置いてテンキーで直接入力するのが一番楽で早かったりします。

綜合的に見た場合に、隠しコマンドを除いた受信性能には大きな不満もなく悪くないラジオだとは思いますが、操作体系や機能と性能がアンバランスというか、既存の高性能パーツを組み合わせていいとこ取りしようとして破綻しているというか、設計者の長年の経験から生み出された創意工夫、換言すれば「文化」が全く感じられないというか、いずれにしても自分の琴線に響いてくる「何か」が足りなくて、どうしても使い慣れた往年の日本製ラジオの出番が多くなってしまうというのが正直なところです。折角良いところがあるのにそれをフォローする部分が駄目なので全体的な評価を悪くしているという感じです。まあ、安物ラジオに「文化」まで求めるのは酷だと重々承知はしておりますが。それを除外しても操作体系が独特である事と兎に角音質が悪いので、折角新しく買ったラジオなのですが積極的に使おうという気持ちにはならず、結局一時引退しかけたICF-7600Dの老体に鞭打って再びメインとして使っています。本当に日本製ラジオは良く考えられていますし性能的にもユーザーの期待を裏切ることなく長寿命ですね。中国製品のレベルは、昔に比べれば良くなりましたが、それでもやはり細部の詰めや設計思想が全然甘いです。まあ、実売価格8000円程度の安価なラジオにあまり多くを望んでケチをつけても仕方がないのですが、もう少し何とかなったのではないかとも思います。まあ、評価の高いサイトの記述を鵜呑みにするとガッカリすることもあると思いますのでご注意下さい。結局は価値観の違いなんでしょうが、所詮発展途上の中国製品だということは念頭に置くべきで、外装がそれらしく見えても日本製と同等のクオリティーを求めるのは筋違いです。外装を外して中の基板を見ると更にガッカリすると思いますので止めておいた方が精神衛生上宜しいです。(笑) ソニーICF-7600Dや同社現行品であるICF-SW7600GRの基板の充実ぶりを見れば、DE1103の実売価格の安さの理由が理解出来ることと思います。安くてもそれなりに放送が聞けさえすればそれでよいという実用本位であれば本機をお薦めしますが、手応えのあるしっかりした受信機が欲しい方は、安価な中国製品に浮気することなく、もう少しお金を出してソニーのICF-SW7600GR辺りを入手した方がはるかに幸福になれるでしょう。やはり細部にコストがかかっている(それ故販売価格が高い)だけのことはありますよ。折角趣味でBCLをやるのですから、仮令販売商品数が少ないとはいえ、なるべく国産の良いラジオで楽しみたいものです。いくら安いからといっても大した技術の蓄積もなく底の浅い安価なだけが取り柄の中華ラジオにばかりに目がいってしまう現在の安物至上主義の風潮ってどうなんでしょうね。私は別に国粋主義者ではありませんが長らく続いた不景気から漸く脱出できそうな感じが増す中、多少高価だからといって日本人が自国メーカー製の商品を買わずしてどうするんですか!と常に疑問に思っています。

インターネット上の某通販サイトで「DE1103はICF-SW7600GRを超えている」などという宣伝文句を見かけますがどう考えても誇大広告ですね。私に言わせれば、基本的な受信性能は7600Dをも越えていないと思います。DE1103は性能対価格比だけをみれば非常に優れています(8000円程度で買えますしドーピング的な見かけ上の感度アップを図っていますから)が、決して超絶高性能ではありませんので売らんかなの宣伝に乗せられないように(過度に期待して買ってからガッカリしないように)充分お気をつけ下さい。私はネットの高評価にまんまと乗せられて落胆した人間の一人だという事を此処に正直に告白しておきます。(笑)

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