中古で入手した本機はアンテナの折れもなく程度がよく私の大のお気に入りで、この価格帯では比類なき名機だと思っています。BCL最盛期の1975年頃に放映されていたTVCMはリアルタイムでよく見ていて欲しいなあと思っていましたが既にクーガ118を持っていたのでこのラジオには中古で手に入れるまで縁がありませんでした。本機最大の売りである「直読スプレッドダイアル」と銘打たれたチューニングダイアルには当初から興味津々でしたが、ソニーがスカイセンサー5900という画期的なラジオを発売後、受信周波数帯域を拡げスプレッドダイアルを改良した後継機TRY-X1700とTRY-X2000にモデルチェンジされ、1600を実際に店頭で見かける事はあまりありませんでした。このラジオの特徴は1MHz毎に発振するマーカー(キャリブレーター)を装備し、これでスプレッドダイアルの目盛りを校正する事によって周波数を直読しようというものです。全帯域ではなく放送バンドのみの表示ですがなかなかのアイデアだと思います。目盛りは10KHz(7MHz以上は20KHz)単位で、しかも普通のバリコンを使っているので周波数が高くなるにつれて目盛りの幅が段々と狭くなり、ダイアルのバックラッシュがかなりあって構造的にもアバウトなので周波数を正確に読みとるのは骨が折れますが、ある程度このダイアルの癖を覚えてしまえばかなり的確にチューニングできるようになり待ち受け受信も決して不可能ではありません。少なくとも250KHz〜1MHz単位でしか目盛りのないフィルムダイアルのみのラジオに比べれば驚く程快適に選局が可能です。しかし、スカイセンサー5900やクーガ2200のような精密さは全くないので残念ながら当時のメカ好きな少年達のハートを掴む事はなかったのではないでしょうか。東芝は最後までこの独自スプレッドダイアル方式を追求したので、同社の製品はこの後も余り人気が出なかったように記憶しています。私がこのラジオを好むのは、電気的・機械的な構造を複雑化させることなく非常に簡易に周波数直読が実現出来る機構を持っているからで、キャリブレーターの発振周波数やトラッキング調整が正確でさえあれば思いの外よく目盛りが合います。但し、キャリブレーターはクリスタルではなくLC発振なので、周波数管理はしっかりとしなければなりません。外部アンテナ端子はありませんので基本的にロッドアンテナだけでの受信という事になりますが、感度が高く分離(選択度)が非常によい(隣接した放送局をシャープにカットしてくれる点ではクーガ118を上回る)ので全く文句はありません。例えば大出力の中国局に隣接する比較的出力の小さい放送局を受信するときなどに性能の高さを実感出来ます(それにしても中国の大出力局は数が多過ぎて、しかも延々と京劇の音楽を流す<火龍>妨害局だったりするので本当に迷惑です)。短波の受信周波数帯域は3.8〜12MHzとBCLラジオとしては狭いですが、いたずらに広くしても高い周波数帯では感度が低下してしまうため、全てを性能を完全に満たそうとすれば価格とのバランスが取れなくなって結局高額になってしまうので、この手のラジオならばこれでも充分です。BFOがないのも残念な気はしますが、ただもしこのラジオにBFOが装備されていたとしても選局ダイアルのバックラッシュなどから考えて別途ファインチューニングダイアルをつけないと実用にならない(そうなるとスプレッドダイアルに細かい目盛りをつけた意味がなくなる)と思うので、コストの面からもその辺をきれいに割り切っているのは正解でしょう。安価なラジオ(当時の物価から考えると15,500円は決して安くはないが)で周波数直読を楽しんでもらおうという設計者の思いが伝わってきて、このラジオを触っていると大変幸せな気持ちになれるのです。いずれにしてもこのラジオの一番の美点はシンプルで使いやすいという事に尽きます。音質が非常に良いことも特筆すべきで、触っていて実に楽しいラジオです。
【私的メモ】
マーカーの校正は基板上部にある白いIFTのコアを廻して行います。簡単に校正するには、周波数のわかっている放送局を受信してその周波数にスプレッドダイアルの目盛りを合わせます。その後その周波数帯のキャリーブレーション周波数の目盛りに合わせてから基板上のIFTのコアを絶縁ドライバーで廻してメーターが最大に触れるように調整します。各周波数帯で同じ事を確認します。これだけでかなり正確に目盛りが合うようになります。但し、CALスイッチの接触状態やアンテナを伸ばす伸ばさないで発振周波数が微妙に変化するので注意が必要です。
最終更新日:2013年12月26日