アナログディスクプレーヤーの修理

※わざわざホームページの記事にすることもないとは思いましたが、更新ネタが乏しいのと、再度修理する時のメモとして敢えて・・・(^^;

先日、パイオニアのリニアトラッキングターンテーブルPL-X520を、ジャンク品ということで殆どタダ同然で入手しました。
リニアトラッキングは一時期ブームになった方式でしたが、本流にならずに終わってしまいました。私も当時かなり興味を持っていたのですが、本格的なものになるとかなり高価で、かといって中級品以下だとT4Pという規格のカートリッジしか使えないし、アームの軸受け精度に対する疑問や、角度を検出しながら動作するのでリニアといっても本当はジグザグに移動している点などを考慮した結果、結局購入は見送ってしまいました。しかしカッティングマシンのように再生針が真横にほぼ直線的に動くというのがメカニズム的に大変面白く、またトラッキングエラー角がユニバーサルアームと比べて僅少というのも魅力的で、いつかは一台・・・と思っていたのでした。今回は値段が値段でしたのでダメだったら捨てりゃあいいかという軽いノリで手を出してしまいました。尚、PL-X520は高級品ではなくシスコン用の安価なモデルです。

T4P:松下電器が提唱したフォノカートリッジの規格で、自重6g、針圧1.25g、更に針先までの寸法などの諸仕様がきっちり決められているため、アームの再調整なしに自由に差し替えが可能。アナログ全盛期には多数の準拠カートリッジが発売されたがリニアトラッキングターンテーブルの衰退とともに製品数も激減。現在はオーディオ・テクニカ、ナガオカ、シュアーなど限られた製品しか存在しない。普通のトーンアームでは専用アダプターを介さないと使えない。


○現状確認

取り敢えず、捨ててもいい傷だらけのレコード盤をターンテーブルに載せ、電源を入れてプレイボタンを押してみると、ターンテーブルは回転するもののリニアトラッキングアームの移動が異常に遅く、またエレべーションボタンでアームを降ろしても途中で止まってしまい、針がレコード盤まで降りてくれません。しかも本体を傾けたりするとカラカラと何かが転がるような音がします。(汗 このままでは全く使い物になりませんので早速分解して修理を開始しました。

     予想に反して簡単な構造です。これならわざわざ機構的に複雑なリニアトラッキングにする必要はないと思いますが、営業戦略的にリニアトラッキングブームを無視できなかったのでしょうね。これなら技術力のない私でも何とか修理できるかもしれないと希望が見えてきました。(笑) あとは致命的な故障箇所がないことを祈るのみです。

     説明書やサービスマニュアルがないので、「勘」で勝負です。(^^;


    リニアトラッキングアーム台座部分詳細

     パッと見た感じでは簡単な構造に見えますが、なかなかよく考えられていると思います。プレーヤー自体の等級を考えると、コストとの兼ね合いから精度的に上級機と同じというわけにはいかないので、さすがに「精密感」というものはありません。しかしこのような比較的簡単なメカニズムでも、仮に現在同じものを作ろうとすると手間とコストがかかりすぎて容易にはできないのではないかという気がします。修理する側にとっては過度に精密でない分、直しやすいです。トーンアームはオールプラスチック製で「鳴き」が心配になりますが、本来ピュア・オーディオ用ではないので、それはそれで気にしないことにしましょう。(^^;


     さて、本体内に転がっていたのはアーム調整用の渦巻き状カム2個でした。リニアトラッキングアームブロックの台座にのっていたこれらの調整用のカムは経年劣化で台座に固定する軸がぽっきりと折れていました。これらは台座に固定できさえすればいいので、カムの軸が存在していた部分に穴をあけてビスで台座に固定することにしました。プラスチックが固くて(継続的に力がかかる用途や歯車などに使用されるエンジニアリングプラスチックは経年劣化で割れやすくなるようで、加えてエポキシ接着剤でも接着出来ません)穴をあけるのに難儀しましたが、カムが割れないように注意しながら径の合う小さいビスをねじ込んで固定完了。修理後は針先がちゃんとレコード盤まで降りるようになりました。

    赤丸の1と2が、軸が折れ台座からはずれていた調整カム
    (左写真は、はずれていたカムをビスで台座に取り付けた(修理)後に撮影したもの)

     いろいろと試行錯誤した結果、

    1. トーンアーム高さ調整用カム
    2. トーンアーム停止(収納)位置調整用カム
    3. トーンアームトラッキング角度調整用カム

    ということがわかりました。(^^;


    次はリニアトラッキング駆動部分です。

     モーターの回転を伝える歯車の部分に塗布されていた黄色いグリースが経年劣化でベタベタになっており、これが円滑な動作を阻害していたので、エタノール等を使って除去しサンハヤトのプラグリースを塗布しました。歯車の噛み合わせ部分だけではなく軸受け、ガイドレールやプーリーの部分にも同じ処理をしています。ゴムベルトは少々伸びてスリップ気味ですが、一応スムーズに動くようになりました。念のため10分ほどアームを往復させて慣らし運転?した後、ターンテーブルを取り付けてレコード盤をのせ、実際に正常に動くかどうか確かめます。針の降下位置はレコードのリードインにピッタリ合いました。また最初はドーナツ盤のリードアウトでアームが上がりませんでしたが、グリースの塗布後はその動作もうまくいっているようなので取り敢えずテスト終了です。ゴムベルトは結局交換しました。


    回転数の調整

     ターンテーブルにストロボスコープを載せたところ回転数がかなり狂っていたので、調整ボリュームを回して正しく合わせます。可変抵抗の接点が劣化している可能性があるので事前に電源を切った状態でボリュームを何度も回転させて接点を簡易掃除。効果があるかどうかわかりませんが念のため・・・(^^; 左が33回転用、右が45回転用です。


    トーンアームの微調整

     

     再度ターンテーブルにレコード盤をのせ、リニアトラッキングトーンアームブロック台座上の各調整用カムを六角レンチで少しずつ回しながらアームの高さを細かく調整していきます。現状ではアームの位置が低い(リフトアップしても殆ど針がレコード面すれすれにある)ため、余裕を持たせて少し高めに調整しました。

     次はリニアトラッキングアームが常に縦方向に真っ直ぐな(音溝の弧と直角に接している)状態で進行するように調整します。実際にレコードをかけてみるとアームの先端が少し左側に寄っているように見えます。この状態だとアームを手動でリフトアップした時にカートリッジの針が右側方向にぶれるように上昇しますので、目測で角度を確かめつつ、リフトアップした時にそのまま針がスムーズに真上に上昇するように少しずつカムを回していきます。この調整は、何度もターンテーブルを外したり付けたりの作業で大変でしたが、ここがしっかりしていないと音質は勿論、針先や音溝を傷める事になるので納得のいくまで調整を繰り返しました。

    針圧の調整

     実際にシュアーの針圧計で測定したところ、そのままの状態では1.8gもありました。T4P規格は1.25gが標準(付属のカートリッジPC-295は1.3g)なので、これでは針圧がかかりすぎです。このアームは錘(アームとカートリッジの自重)をバネで引っ張り上げて針圧を調整する方式なので、バネの張力を変えるネジを回して1.3gになるように調整します。おそらく経年によるバネの伸びの所為で針圧が過重になってしまったと考えられます。ネジの回転がなかなか微妙で最適点を見つけるのに時間がかかってしまいました。(^^; 調整後はネジに緩み止めを塗っておきます。

    余談ですが、このシュアーの針圧計SFG-2は安価で簡単な構造ながらなかなか正確で実に重宝します。ターンテーブルをお持ちの方は是非一台常備されることをお薦めします。


その他各部

フォノモーター

振動を伝えないようにゴムで覆われていますがSN比悪そう・・・(^^; 回転は正常です。ベルトの伸びも殆どないようです。

ターンテーブルスピンドル

先端の部分が錆でくすんでいたのでコンパウンドで磨きました。軸ブレはありませんでした。シャフト内部の古いグリースを全て取り去って新しいグリースを詰め込みたいのですが、生憎良いものが手元にないので取り敢えず現状のまま・・・(^^;

電源トランス

漏洩磁束が影響するノイズは特に感じられませんでした。

付属カートリッジPC-295

マグネットの構造(VM)から見てオーディオ・テクニカ製のOEMと思われます。T4Pアダプターで常用のターンテーブルのアームに取り付けて試聴してみましたが、なかなか歯切れのよい元気な音がします。交換針品番はPN-295T、針圧1.3g T4P規格

プレイ・ストップスイッチと表示LED

LEDがヘタっているようで少し暗いです。新しいものと交換すれば解決しそうですが、取り敢えず現状維持ということで・・・。スイッチの接触不良はありませんでした。

電源スイッチと回転数及びサイズ選択スイッチ

こちらも全く不具合がありませんでした。本来は分解して接点の掃除をしたいところですが現状で問題がないのでそのままにしておきました。


LP盤にて最終動作チェック

EP盤で最終動作チェック

元通りに組み上げて修理完了!

今回は幸いなことに致命的な故障箇所もなく、比較的直しやすい部分が多く、またゴムベルトに顕著な伸びがなかったため、新たに部品が必要になることもなく(ただ、針の使用時間が不明なのでいずれにせよ新しい針に交換しなければなりませんが)上記の通り何とか無事に修理が完了しました。リニアトラッキングの仕組みがよくわかり勉強になりました。自分で直したものがちゃんと動くようになると、たとえ安物でも愛着が湧くものですね。こういった機械製品は電気回路も含めて、適度に動かしてやらないとダメになるので、折を見て使っていきたいと思います。レコードの音溝に合わせて健気に移動するリニアトラッキングアームというのは、見ているだけでも楽しいですね。普段は完全マニュアルのターンテーブルを使っていますが、フルオートプレーヤーは、聴きながらついうたた寝してしまってもカートリッジやレコード盤を傷めないし、何度もリピートできるので便利でいいです(実はフルオートは初体験だったりします)。また、針を上げたり下げたりする時には自動的にミュートがかかるので、余計な雑音を聞かずに済むのも美点です。この機能、簡単な録音には結構使えそうです。音質の評価はこちらをご覧下さい。


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