その他のターンテーブル

Pioneer PL-X520 (D)

ジャンク中古品をタダ同然で入手したものの、リニアトラッキングアームが不調だったので分解修理した。その経過については こちら。本機はミニコン用の比較的安価なもの。下記テクニクスSL-6と比較するとアーム移動に必要な検出角度が少し大きめでカクカクと動くので、アームが正しい位置に復帰するまでのトラッキングエラーは若干多そうな感じだ。これは恐らく機械的な精度を追求したものではなく、リニアトラッキング方式が流行した結果作られたものだからだろう。それでも精度的には必要にして充分であるようだ。センタースピンドルのガタやブレは皆無で、さすがにこの辺はしっかりした作りである。ターンテーブルシートは粘っこくなくさらっとしていて埃がつきにくいのは良い。表面に細かい凹凸があるのでレコード盤が滑るようなこともない。このモデルはネットで検索しても殆ど該当記事がなく、詳細な仕様は不明である。本体背面の銘板を見ると、何処かのOEM製品ではなく純然たるパイオニア製のようだ。

音質は、軽くて華奢な本体のイメージとは違って、大変堂々として立派なもので全体的なバランスも良い。歪みも殆どなく爽やかなところは非常に魅力的である。発電構造からオーディオ・テクニカのOEM品だと思われる付属カートリッジは明るく元気があって、単品としてみても良品である。T4P規格なのでカートリッジの交換も可能だが付属のカートリッジに全く不満はない。さすがにアナログ全盛期の製品だけに、ミニコン用とはいえ音質的によくまとめられていて、過不足のない音で鳴るので私としては気に入っている。フォノモーターから発する振動音が若干大きめでSN比が心配になるが、再生音を聴く限り実際の再生音には殆ど影響はないようだ。回転数やレコード径の選択はマニュアルで選曲こそ出来ないものの、フルオートでリピート再生もできるので大変便利である。当時はそれ程グレードの高くない他愛もないものだったのだろうが、現在同じものを作ろうとしたら、実売価格は相当高額になるのではないだろうか。


Technics SL-6 (D)

こちらも中古で入手。シルバーの器体はよく見かけるが、ガンメタルブラックという色が珍しい(SL-1200mk4のボディーの色ともよくマッチしている)ので思わず手に入れてしまった。(^^; 上記パイオニア製と同様リニアトラッキング方式。こちらも、アームが定位置に戻らない、ドーナツ盤を自動認識しない、各回転数がずれている等の不具合があったが修理調整した。幸い部品そのものが壊れているということがなく設計も合理的なので、各部の清掃と細かい調整であまり手こずることなく機能が回復した。LPとシングル盤を自動認識して回転数を変えてくれるフルオート機で、しかも音溝の幅の違いを光学検出(非常に正確)し10曲までメモリー選曲出来、しかも任意のトラックをリピートできたりするので、まるでCDプレーヤを扱っているような感覚で本当に便利である。上記パイオニア製廉価版に比べるとリニアトラッキングアームの動作が小気味よい。テクニクス製のリニアトラッキングプレーヤーではSL-10とSL-7がオーディオ的に優秀というイメージのお陰でオークションでも信じられないくらいの高値がつくが、SL-6は機能が多いのでピュアオーディオマニアからは一段落ちるということで敬遠され中古価格はこれまた信じられないくらいに安い。私にとってこういった殆ど意味のないランク付け(製品が現役で売られていた時代ならいざ知らず、もう製 から何十年も経過して、更に趣味としてのオーディオが衰退した現在では意味がないということ)は単なるプラセボに過ぎないと考えているので、賢い買い物が出来るというわけだ。メカニズムは多少簡略化されていたとしても基本的なものはほぼ踏襲しているだろう(新規に設計すると高くつく)し、フルオート制御用の電子回路が増えただけだと思われるので、故障率は高いにせよ音の品位の差はあまりない筈で、実際に本機のボディーの材料はよく吟味されており、見た目以上に重量があってしっかりした作りなので、実は結構狙い目だったりするのはここだけの秘密である。(笑) 電源コード、出力ケーブル、アースコードは直出しではないのでスッキリして扱いやすい。好みの出力ケーブルが使えるのはSL-1200mk4と同じで、ケーブルの経年劣化を気にせずにすぐに交換できるのは実にスマートである。

音質はリニアトラッキングのせいか、カートリッジのせいか、それとも本機の特質によるものか非常にクリアでスッキリしていて見通しがよい。上品で歪みも感じられない。スペック上、トラッキングエラー角の誤差が少ないのは精神衛生上大変よいが、開放感という点では現用機には若干及ばない感じがする。多少、箱庭的な鳴り方だが、これだけしか聴かなかったらおそらく不満は出ないのではないだろうか(フォノイコライザーで全く印象が変わりました)。←フォノイコをコスモテクノのミキサー(CS-M1)に替えたら、常用ターンテーブル+プリアンプに引けをとらない程の躍動感と音場感に変わり、全く素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。CS-M1が非常に良質なフォノイコだという事はPL-X520に接続した時の音質でも確認しているが、SL-6は質的にPL-X520を明らかに上回っているので非常に優れたターンテーブルであるということに間違いはない。上部カバーの裏側にリニアトラッキング機構があるので余計な振動を拾うのではないかと思ったが、かなり重量がありメカニズムもしっかりしているのでその点は心配がない。正確で俊敏なアームの動作はさすがテクニクスと思わせる精密なもので、駆動用モーターの振動も音には影響していない。オート選曲は、最初に誤差修正(読み取り)をしてしまえば後は極めて正確に動作するので本当に便利である。ピュアオーディオということに必要以上に拘って、しなくてもいい不便を強いられるのは何だか本末転倒のような気もする。大昔の機械式蓄音器でさえオートストッパー位は装備されていたのだから。純正カートリッジのEPC-24CSは明るく軽快な音質だ。テクニカのAT102Pに交換したところ重心がぐっと下がり低域が出るようになったが多少重たくなってしまうので、相性はオリジナルのものの方が良い感じではある。更に良質のカートリッジを使えばより一層音質が向上するのだろうが、如何せん今では上級機が殆ど入手できない。しかし、オリジナルでも全く不満はない。尚、ターンテーブルはDDとはいってもクオーツロックではないため、回転数の管理は慎重にした方がよい。入手時は回転数が多少狂っていたが比較的簡単に調整ができる。この機種はネットオークションでも安く手に入り音質と機能のバランスが極めて良好(音質が良くしかも便利)なので、先入観からこの手のオート機は音質が悪いと頑なに信じているピュアオーディオ原理主義者以外の普通に音楽を楽しもうとしている人にとっては、完動品であれば大いに満足できると思う。

SL-6の詳細な仕様はこちらをご覧下さい。


audio-technica AT-PL30 (D)

フォノイコライザー内蔵の超ローコストフルオートプレーヤー。カートリッジの交換は出来ない。このターンテーブルはネットなどで評判が良かったので、興味本位でネットオークションで安い中古品を落札して入手。パイオニアやアイワ等、他のメーカーから発売されている同価格帯のターンテーブルもほぼこれと同じものだ。金属部品はプラッターの軸とトーンアームくらいでほぼオールプラスチック製。とりわけフルオート機構が面白い。まるで古い機械式蓄音器のオートストッパーのようなメカニズムである。アームの動作も全てフォノモーターの動力を利用する。余計なモーターや制御基板がない分、故障しにくく長持ちしそうだ。(笑)

付属カートリッジはテクニカのVM型で針先はボンデッドコニカル(接合円錐)針。ターンテーブルシートは多少粘っこい感じで、レコード盤をしっかりホールドするのはよいのだが、埃がつきやすい。このターンテーブルの裏蓋を開けると電気回路の基板はフォノイコライザーと電源部のみで、よくここまで簡略化したなあと思うような作りである。フォノモーターのサーボ回路はモーターに内蔵されているので基板もなく、電源基板からリード線で直結である。故障しても、部品が手に入りさえすれば修理は非常に簡単だ。実売価格7000円程度というのは構造から見てもまあ妥当な価格であろう。交換針は3500円で本体実売価格の約半分、もう少し安いと文句なしなのだが。電気回路があまりにも簡単なので裏蓋は開けない方が精神衛生上よろしい。(^^; 中古品の所為か33、45ともピッチ(回転)が少し速めだったので、規定の回転数になるように調整した。ピッチ調整は簡単で、本体底面にそれぞれ33、45と書かれた調整穴があるので、其処に精密ドライバー(マイナス)を突っ込んでストロボスコープを見ながら合わせればよい(絶縁ドライバーだと尚良いであろう)。モーター本体の調整穴を塞いでいる黒いゴム(スポンジ?)にドライバーの先端を突き立てる事になるが特に問題はなく、ゴム(スポンジ?)が破れてボロボロになって落ちてくるといったこともないので、気にすることはない。もし保証期間が残っているのであればメーカーに出して調整してもらえばよいが、保証期間が経過してしまった場合はこれだけでも技術料がかかるはずだ。内部構 を見る限りメーカーに出しても上述と同じ事をやるだけの筈だから、安価で購入したものにわざわざ修理代金(技術料)を払うのも何だか本末転倒のような気もする。万一壊してしまっても文句を言わない覚悟のある人は自分で試してみる価値はある。簡単な作業ではあるが、ドライバーはゆっくり挿入して作業は慎重に行うこと。筆者は積極的に推奨するつもりは全くない(つまり責任を負わない)のであくまでも自己責任でお願いします。

殆どオールプラスチック製で内部構造も簡易ということでヘナヘナな音を想像していたのだが、実際に鳴らしてみると予想に反してなかなかしっかりとしていて、この価格を考慮すれば全く文句のつけようがないくらい良く出来ている。しかし現用機に比べるとあらゆる部分が抑制されてこぢんまりとした感じになり、音場の広がりに欠け余韻の成分は少な目になってしまう。レンジも決して広くはないのだが、帯域バランスが良く整っており聴きやすいことは確かである。カートリッジの素性が良い所為か、歪みにくく綺麗な音が出る。付属カートリッジのカンチレバーには根元から先端まで黒いゴムのようなものがコーティングされておりダンピング効果或いは針飛び事故の軽減を狙っているのだろうか、普通のカートリッジと比べてノイズの出方が違うが針圧が重めなので、かなり反ってしまったレコード盤を除けば針飛びの心配は殆どないし、トレース能力も決して悪くない。本機は(定価ではなく)実売価格を考えれば、非常にバランス良くまとまっていて良心的だと思う。この製品は、「昔買ったレコードがあるものの、高価なターンテーブルをわざわざ買うつもりがなく、取り敢えずお金をかけずに良い音で聴いてみたい」という使い方にピッタリだと思う。ちょっとした入門用カートリッジ1個の値段で、必要最低限レコードが聴けてしまうプレーヤーが買えてしまうのでコストパフォーマンスは高い。しかし出力ケーブルが極めて短いのでアンプのすぐ傍に置くか別途延長ケーブルを使わなくてはならない。その所為か、弱点としては兎に角ノイズが乗りやすい。個体差なのかどうかわからないが内蔵フォノイコライザー使用時にごく僅かにハムノイズが出てしまったり、ちょっとしたことで予期しない回り込みノイズを拾ったりする。これがまた不定期に出るのでノイズ発生源の特定が難しく始末に負えない。フォノカートの出力という非常に微弱な信号を扱っているのにも拘わらず、コストの面からシールドなど全くされておらずノイズ対策が万全でないのはある意味仕方のない事なのだが、それにしても外来のノイズには極めて弱いと感ずる。内蔵フォノイコライザーをオフにして外部のフォノイコライザーアンプに接続した場合にはアースが取れない(元々アース線が無い)為にブーンというハムノイズが盛大に出るので、内蔵フォノイコは常にオンにして使うのがベストだ。フォノモーターの振動音は無視できる程度で再生音に悪影響を与えることはないが、アームが動作するときの音(例えば再生開始時に、アームがアームレストから持ち上がってレコード盤まで移動するときの音や、戻るときにアームレストにぶつかるときの音)を拾ってしまうので要注意である(これは構 上の問題であって故障ではない)。大変良く出来たターンテーブルだけにノイズに弱いという点だけが本当に惜しい。これだけを聴いている限りおそらく不満は全く出ないと思うし、手軽に済ませたいという人には値段も安いし音質もいいしで特にお薦めできる製品である。電池駆動が出来るポータブルタイプのプレーヤーを最近入手して聴き比べてみたが、やはり音の品位がまるで違う(こちらの方が圧倒的に良い)。本機はモデルチェンジしてAT-PL300に交替した(USB端子付きモデルもある)がほぼ同じものと見てよいと思う。


Vestax BDT-2500 (D)

DJ機材で有名なVestaxのリスニング用ターンテーブルである。これは現行製品であるBDT-2600の先代機だが、つまみやスイッチ類が取り付けてある金属プレートと本体サイド部分のデザインが変更になっているだけで内容的にはほぼ同じものである。このターンテーブルで特筆すべきは何といっても回転数が16〜98回転までシームレスにカバーされていることだ。20回転だろうが60回転だろうが、たとえ規格外であっても任意の回転数でターンテーブルを回すことが出来る。つまり現存するレコード盤のほぼ全てをこれ一台で演奏できるのである(本機で演奏できないサイズ(直径)の特殊ディスク等を除く)。これはDJ機器製 メーカーならではの発想であり、ピュアオーディオメーカーだったら決してこのような製品は作らないだろう。それに新品で購入すると33、45、78各回転数を正しく調整するためのストロボスコープが付属しているのも心憎い配慮であり非常に貴重なターンテーブルである。この製品を見ていると、回転数微調整すらできない所謂ピュアオーディオメーカーの製品が如何に窮屈であることか! ユーザー側がアプローチできる部分が多い事は、「物理的な音」よりも「音楽」再生を欲するユーザーにとって非常に重要だという事をオーディオメーカーは全く理解していないのだ。自分のは中古で入手したもので、純正のカートリッジ(VR-3S)ではなくオーディオ・テクニカの安価なものが付いていた。アームの高さ調整機構やアームリフターすら装備されていない非常に簡 な作りではあるが、アームの感度そのものは決して悪くない。また、ベルトドライブ方式ではあるが、ionのポータブルプレーヤーのように針を降ろした際にトルクが不足する(回転が遅くなる)ようなこともないし、分厚くて重い英国製の喇叭吹き込み盤でも全く問題なく回転する。中古での入手時はベルトが伸びきっていたのでVestax純正部品を取り寄せた(Vestax製品取扱店で注文可能)。本機の純正ベルトはよく見かける黒いゴム製ではなく、飴色である。取り寄せが面倒な方はこちらの通販でも扱っているのでご参考まで。尚、純正部品が入手出来る場合は代用品を使わずに、機器への負担が最も少ない純正品を使用することを強くお薦めする。価格も純正品の方が安い。残念ながら純正品の入手は不可能になってしまった。古いベルトで回した時はほぼ正規の回転数だったが、新しいベルトに交換したら若干遅くなってしまったので、本体の裏蓋を開けて基板上の半固定抵抗器を微調整した。

 

手持ちのカートリッジを取り付けて実際に試聴してみたところ、やはり音の安定感はAT-PL30等の簡易型とは違って、安心して聴く事が出来る非常に良質なものだ。ベルトドライブではあるが特に音揺れを感じることもない。内蔵フォノイコライザーは周波数レンジ、ダイナミックレンジともに若干スケ−ルダウンしてしまう傾向があるが音そのものは歪み感もなく綺麗である。内蔵フォノイコをバイパスして独立したフォノイコライザーに接続してみたら目の覚めるような音が出て実に楽しい。特に78rpm盤はSHUREのM78Sを装着して聴いてみたが生気が溢れていて、正直なことを言うとSL-1200mk4で同じカートリッジを演奏した音よりも開放的で好ましく感じられた。ただ、カートリッジによっては内蔵フォノイコで再生した方が好結果が得られるものもあって一概にどちらがよいとは言えない面がある。更に、ピッチの調整幅が大変広いので、SL-1200mk4では調整しきれなかった喇叭(アコースティック)吹き込み(1924年以前)のレコード盤も正規のピッチで聴けるのが 晴らしい。それに、78rpm盤の中には少ない収録時間を稼ぐために意図的に回転数をかなり落としてカッティングしているものがあり、通常の回転数調整範囲では対応できない場合もままあるから、78rpmを再生するのであれば対応回転数の面からも音質の面からも断然お薦めのターンテーブルである。

 

本機の欠点は、アームリフターがついていないので針の昇降に非常に気を遣うということと、内蔵フォノイコライザーをスルーして出力した信号に僅かにノイズが乗ることである。アースが装備されていないことが原因だろうと思ったが、電源を入れない状態では全くノイズが発生しないので、電源回路のどこからかノイズが漏洩しているようである。フォノイコにアース線を繋ぎ、本体の色々な金属部分に線を接触させてみたが特に改善はされなかった。但し、同じVestax製のUSBオーディオインターフェイス TUB-2 のフォノ入力モードではハムノイズは出なかったので、ケースバイケースだと思われる。また、アームの高さが元々高いので、別途厚みのあるターンテーブルシートを用意するか、スペーサを挿入してカートリッジをヘッドシェルに取り付ける必要がある(実際に音を出してみて、本機ではそれ程アームの高さに神経質になる必要はないように感じられた)。それらの点を除けば、音質的にも悪くないし非常に使いでのある良いターンテーブルだと思う。本機はオーディオ雑誌のレビューなどでは全く採り上げられないけれども、私自身は非常に気に入っている。

所謂日本のピュアオーディオメーカーの殆どがアナログディスクプレーヤーの製造から撤退してからかなり長い時間が経ってしまった。技術の継承が為されていないオーディオメーカーと比較すれば、現在もアナログディスク関連製品を作り続けているVestax社のアナログに関するノウハウの積み上げは寧ろ嘗てのオーディオメーカを超えているのではなかろうか。しかもピュアオーディオメーカーには決して出来なかった「楽器」としての発想での同社の製品作りは実に素晴らしいものがある。ピュアを追求するあまり、ピッチコントロールさえ蔑ろにしてしまったオーディオメーカとは発想の根本が違うのだ。「音楽」を楽しみたい者にとってVestax社の姿勢は大いに賞賛すべきものがある。需要は少ないだろうが、今後も作り続けて欲しい製品である。

 

Vestax社は2014年12月5日に倒産しました。本機は中古で購入したため付属品がなく、純正ベルトと一緒にオリジナルのストロボスコープやドーナツ盤アダプターも何の問題も無く直ぐに入手でき、ユーザーの隔てなく純正部品を出し惜しみしない非常に誠実なメーカーだっただけに本当に残念です。(涙


Vestax handy trax (D)

 

Vestaxの人気のポータブルターンテーブル handy trax である。ionのiPT01とプラッターの駆動方式やカートリッジ(CEC製だといわれている)がよく似ていて、アダプター出力がAC12Vであるのと単一乾電池を6本使うのも同じだ。しかし、重量は大幅に軽く、スマートな形状で持ち運びが非常に楽である。本機は既に生産終了となり、USB出力付きの後継機に切り替わっている。中古で入手した本機は、予想通り回転数がかなりズレていたため、裏蓋を開けて33、45、78各回転用の3つの半固定抵抗器をそれぞれ調整して正規回転数に合わせた。本機もiPT01のようにレコードのかけ始めと終わりではピッチが若干変わり、33回転、30センチLPのかけ始め(リードイン直後)を442Hzで合わせるとリードアウト直前では約445Hzになる。その差約3Hz、しかも少しずつ変化していくので、普通の人だったら気が付かないだろう。演奏中の音揺れに関してはiPT01より少ないように感じた。音質についてはセラミックカートリッジの限界か、やはりHiFiオーディオの世界とは少し異なるが、よく頑張っていると思うし、気軽に聴く分にはこれで充分だろう。アームはスプリングの張力で針圧をかけるダイナミックバランス方式で針圧実測値は約6gだった。さて、これで78rpm盤を演奏すると実に 敵な音がする(ヘッドフォンとライン出力)。高音と低音のバランスを非常に良くまとめてあり、各種イコライザーによる補正が必要ないくらいだ。高音が大人しいと思ったらトーンコントロールで高域を強調すればよい。付属内蔵スピーカーは、口径が小さいのでやはりそれなりの音で、出力も小さいようだ。ionのiPT01と同じような感じで、確認用途であれば充分だがじっくり聴くのにはあまり向かないと思う。しかし、ピッチコントロール付きなので、極端に、例えばラッパ吹き込みのように全音以上回転数が異なる場合を除いて、正規回転数に補正して聴くことが出来る点も実に 晴らしい。また、33、45回転時に目立った外周と内周のピッチの差や音揺れも78rpmの高速回転時には全く問題にならない。更にライン出力にもトーンコントロールが効くので、録音時の簡易音質調整も可能だ。78rpmの再生装置としても非常に優秀なので蓄音器代わりの「現代の電蓄」としてお薦めしたい。78rpm用の専用交換針(ノブの色はグレー)の針先径は3milで、iPT01は勿論、下記の音聴箱やその他安価で発売されている78rpmモードがあるレコードプレーヤーにも使える(カートリッジCZ-800、針とも株式会社 中電製)。尚、電池駆動の場合、ある程度電池が消耗するとピッチコントロールの+側一杯に廻してもクリックのある±0地点から回転数が速くならないことがあるが、これは本機の特性であって故障ではないことを付記しておく。

 

Vestax社は残念ながら2014年12月5日に倒産しました。


日本コロムビア 「音聴箱」 COLUMBIA GP-17 (D)

本機はそのネーミングやターゲット層から考えて、自分の眼中には全くなかった製品だが、中古品を興味本位で入手し実際にその音を聴いて、自分の不明を恥じている次第である(笑)。上述のVestax handy trax や別項で採り上げたionのiPT01とカートリッジなどの使用部品は同一である。故に、交換針は共通で使える。箱はしっかりとした木材を使ったなかなか立派な作りでずっしりと重くブラウンの落ち着いた色調だ。何といっても天板裏に貼られたViva〜tonal Columbia Grafonola の懐かしいロゴマークが往年の数々の名蓄音器を彷彿とさせてくれる。歴史の長い日本コロムビア社ならではの遊び心を高く評価したい(音響機器部門は日本コロムビア社から分離され(株)デノンとなった)。78rpm交換針を取り付けてまさに専用「電蓄」として活用している(33、45回転の場合はiPT01やhandy trax と同様、どうしても若干の音揺れが聞こえてきてしまう)。というのも、非常にバランスの良い音質で78rpm盤を再生してくれるから、細かいことを気にせずに大らかな気持ちで聴くことが出来るのである。しっかりとした木箱も音質向上に寄与しているようで、口径が小さい内蔵スピーカーなのにも拘わらず聴感上かなりしっかりした低音が出る点も評価できる。この低音感は実に 晴らしい。78rpm盤は本来モノーラルなのだが、本機に採用されているカートリッジはステレオ用なので内蔵された2個のスピーカーからそれぞれ音が出る。モノーラル盤を2つのスピーカーで聴くなどという、所謂ステレオ再生は邪道だと言われそうだが、一寸見方を変えて、ビクトロラVV1-90や、コロムビアNo.116のように2分割されたフォールデッドホーンから出てくる音だと思い込めば(笑)、それはそれでなかなか良い雰囲気を味わえるはずである(ノイズがステレオで聞こえてくるのはご愛敬)。ラジオやカセット、CDプレーヤーなどといった余計な物を一切つけず、レコード盤再生専用に徹しているところにも好感が持てる。また、おもちゃのように簡易ながらアームリフターもついているので演奏終了後に針を上げるのが楽だ。もともとヘットシェル?部分の指掛けが斜めで短く、非常に持ちにくい形なので、これがあるとないとでは使い勝手がかなり違ってくる。本機唯一の弱点は回転数微調整機能が付いていないことだ。78rpm盤は一枚一枚全て回転数が違うと考えた方がよいので、速度微調整がもし付いていれば、ほぼ完璧な78rpm再生専用電蓄になったはずなのだがその点だけが実に惜しい。昔の蓄音器にはちゃんと速度微調がついているのでこれにも是非つけて欲しかった。本機はかなり前にディスコンになっていて、音聴箱シリーズも現在全て生産終了である。手軽に良い音で78rpm盤を再生したい方にはお薦めのプレーヤーだったので至極残念である。


日本コロムビア 「音聴箱」 COLUMBIA GP-12 (D)


昔のコロムビアマークが郷愁をかき立てる

これもかつて日本コロムビアから発売されていた音聴箱シリーズの中のひとつで、FM、AMラジオを搭載しておりスピーカーは一個のみのモノラル仕様である(外部スピーカー端子も存在しない自己完結型)。プラッター、トーンアーム、カートリッジは上述のGP-17と同じものが使われていて、OEMとしての製造元も同じである。箱はGP-17とは異なり、非常に明るい色調で丁度HMV蓄音器のマホガニーと(ライト)オークの違いのようで楽しい。完全モノーラル(カートリッジそのものはステレオ仕様だが、最終的にL+Rのモノラル)仕様なので、特に78rpm盤を聴くにはもってこいの機械である(別売りの78rpm針(グレーノブ)を使用)。上蓋の裏のみならずラジオのダイアル部分のパネルにも昔のビバ・トーナル・コロムビアマーク(アメリカ・コロムビアやイギリス・コロムビアの蓄音器にもこのマークが使われていた)が大きくプリントしてあるのは音聴箱シリーズではおそらく本機のみで、78rpm盤時代のコロムビアファンには堪らない製品である。(笑) 選曲ダイアルも昔風で、まさに往時の電蓄を思わせる逸品だと思う。78rpm盤を再生した時の音質はGP-17と同様に過不足のないもので低音感もしっかりとしており、更に本機はモノラル仕様ということもあり大いに満足できるものである。AM及びFMラジオの感度も水準を充分クリアしており、また1時間後に電源が自動的に切れる「おやすみタイマー」も搭載されており非常に便利だ。電源スイッチやおやすみスイッチ(回転数セレクターを除く)は電子ON/OFF式で押した時の圧迫感がなく非常に軽快に操作でき、動作中は赤色LEDが点灯する。おやすみスイッチはもう一度押すとタイマーが解除される。本機は上蓋を開けたままレコードを演奏したりラジオを聴くと何故か高音がよく響く(ニードルトークの所為ではないのが非常に不思議だ)。蓋を閉めると落ち着いた音になるのだが、その様子はまさに卓上型蓄音器そのもののようにも思える。GP-17に比べるとコンパクトサイズで軽く使い勝手が良く、スピード微調整はやはり付いてはいないものの、この種のプレーヤーではデザインといい音といい一番気に入っている製品である。本機に回転数微調整機構が付いていたらベストだっただろう。

記事改訂:2019.10,07

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