オンド・マルトノ入門講座、第8回

2004年2月14日(土)

 去年の7月から出席しているコミカレのオンド・マルトノ入門講座も早いもので、もう8回目になった。自分の楽器がなく練習がままならないので進歩は遅々としたものだが、原田先生の忍耐強いご指導の元、楽器の演奏技術以外にもいろいろなことを教わる事が出来、本当に感謝している次第である。

 今朝は運悪く、高円寺付近で火災があった影響で電車が遅れてしまい、教室に到着したのは10時45分頃になってしまった。本日の出席者は女性一人、私、見学の男性の方、計3人であった。

 相変わらずジョリヴェのカプリースのリボン奏法が上手くいかずに苦労する。原田先生から、右手首が下がりすぎていること、手全体に余計な力が入りすぎている(脱力ができていない)こと、リボンの指リングが深く嵌りすぎている、とのご指摘があったので椅子を少し後ろに下げ、腕を少し伸ばすような感じにしてリングを指の先に浅めに嵌めて演奏したら随分弾きやすくなり、いくらか堅さが取れたようである。これは効果的だった。それから、ジョリヴェなどの独特のモード(旋法)で統一されているような感じの曲は、モードのみを取り出して練習して慣れた方がよいとのご指摘もあった。考えてみれば楽器は全て音階練習から始めるのだから、至極もっともなことだと思う。ただ、ジョリヴェのカプリースは跳躍が多くて初心者には難しいので、比較的跳躍の少ないメシアンのヴォカリーズを練習するようにとのことであった。

 いつものことではあるが、ただ漫然と弾いていてもダメであり、自分の出す一音一音の意味を深く考えつつ、大きなフレーズを作っていく事が如何に大切であるかということを痛感する。これは同じ単音楽器であるフルートでも良く指摘されることであり、モーリス・マルトノの「楽器」製作へのアプローチが伝統的かつ的確なものであったということがよく理解できる。

 さて、演奏技術的な内容はこれくらいにして、今回は一つトピックがあったのでその話を。今日講座を見学に来られた方は、なんと「オンド・マルトノを製作したい」という方であった。講座終了時間までしばらくオンドを試奏なさり、楽器を原田先生の車に積み込んだ後、同じ西武内の喫茶室に移動して3人でいろいろと話をした。私もこのサイトでオンドについていろいろと書いているが、実際の製作の方はからっきしダメなので、こういう方がいらっしゃるのは実に心強いことである。勿論、私のように電気知識の上っ面を撫でただけの素人とは違って深い知識をお持ちの方であった。

 喫茶室での原田先生のお話は、オンドの発音方式から始まり、真空管製とトランジスタ製楽器の違い、発振の不安定さや歪みの多さが逆に楽器としての魅力を増していること、オンドが一台一台カットアンドトライを繰り返して製作された結果、同じ楽器が一つたりとも存在しないこと、モーリスが一台一台調整の仕方を丹念に記録していたこと、通常のエンジニアの発想からは逸脱したかに見える独特の回路設計、マルトノ家が楽器製作を止めてしまった理由、果ては同時期に開発されたテルミンとの決定的な差違、史上最高のテルミニストといわれるクララ・ロックモアが演奏している楽器についてなど、多岐に亘り、本当に興味深いことばかりで、素人の私にとっても大いに勉強になった。またプロフェッショナルな演奏家の立場からの楽器製作の要諦なども語っておられた。実際、電気的な音源部よりも演奏者が直接触れる部分(インターフェイス)の設計の方が難しいと思う。

 我々オンド愛好家にとって実物の楽器の存在は実に重い意味を持つ。オンドの故郷フランスに於いて後継機ロンデアがほぼ開発を終了して製作段階に入ったとはいっても、やはり日本にいる我々にとってはまだまだ身近なものではないし、大量生産ではないからいずれにしろ入手の困難さは変わらない。ましてマルトノのオリジナル楽器を所有することなど叶わぬ夢である。我々だけではなく海外に於いても自分の楽器を渇望している方は多い筈だ。実際にアメリカのシンセ関連の掲示板で「オンドを手に入れたい」という書き込みを目にしたこともある。そんな中にあって、今回見学にいらっしゃったオンドの製作を目指している方の存在は非常に大きい。コントローラー部だけのアナログシステムズ製フレンチコネクションの上を行く、総合的な楽器としてのオンド製作に期待は膨らむ一方である。勿論、最初から完璧である必要は全くないし(ロンデアはこの辺でかなり揉めたらしい)、普段の練習に充分使うことの出来る普及型「オンド・マルトノ」が欲しいのである。

 楽器製作で必要なことであれば、微力ながら協力は惜しまないつもりである。日本でオンド・マルトノを製作することは今は亡き大作曲家メシアンが望んでいたことでもあるし、自国からオンドが生まれることほど嬉しいことはないと思う。

オンド・マルトノについての詳細はこちらへ。