2003年7月12日(土)
この講座は随分前からやっていて、私も当初から参加したかったのであるが仕事の関係でどうしても日程が合わず、今までずっと指をくわえていたのだった。最近やっと日程的に参加できるようになったので、早速申し込んだ。オンドは過去一度だけ触れてみたことがあったので(本当にただ触れただけ)、実際の演奏はどんなものかと非常に楽しみであった。
原田 タカシ先生のご指導の元、和やかに講座が始まった。
この講座では基礎からみっちりと指導していくのではなく(時間的に無理なので)、自分のやりたい曲をとりあえず演奏できるようになるのが目的であるというお話、オンドの概要、モーリス・マルトノが楽器に施した工夫、マルトノの楽器の設計意図などの説明を受ける。オンドの場合、出力を単に増幅させてディフューザー(スピーカー)を鳴らすのではなく、出力を一旦本体にフィードバックさせた後増幅してディフューザーを鳴らすそうである。電気的な出力音圧と実際に耳が受け取る音圧感に対しても考慮されているそうだ。
リボン(指に嵌めて左右に移動させる)を使用するのがオンドの基本である(鍵盤は補助的なものと考える)ので、リボンとトゥッシュ(アタックとディナーミクのコントロール)の使い方から指導を受ける。
先ずはトゥッシュから
(トゥッシュとは楽器左側(下方)に装備されている細長いボタンで、左手人差し指で押し込んだり戻したりして音価と音量を制御する機構である。トゥッシュtoucheは英語のタッチtouchに相当するフランス語)
リボンのリングを右手の人差し指に嵌めて中央ドの位置に持ってくる。リングには内側にバネが付いており、容易に指から外れないように密着する形になっている。左手の人差し指でトゥッシュを押すとディフューザーから音が出る。他の指がコントローラーに触れないように手首を少し宙に浮かす感じでボタンを押すのだが、指の力で押してはいけない。脱力し、手首を柔軟に使ってコントロールする必要がある(指だけのコントロールは過度の疲労を招くばかりでなく適切な制御ができない)。長年ピアノを弾いてきた私はどうしても手首を下方に持っていく癖があるので上方で保持するのにはかなりの努力がいる。左手のみならず、右手の動作にも脱力と手首が重要な役割を果たすので、ピアノのテクニックはオンドには全く通用しないのである。勿論ピアノに於いても脱力、手首は重要なのだがベクトルの方向が全く異なる。フルートの時も感じたが、持続音の楽器の制御はピアノしかやってこなかった人間には難しい(元々音を持続させるという発想がないのである)。 それにトゥッシュはちょっとした力加減にも敏感に反応するのでかなり意識してコントロールする必要がある。ここでは譜例1のような強弱の練習。
譜例1
リボンを移動させて音階練習
(リボンとは、鍵盤手前に装備されているワイヤーで吊ったリングで、それを右手の人差し指に嵌めて左右に移動させて音高(ピッチ)を制御する機構である。正式にはバーグ(Bague:英=Ring)と呼ぶがリボン(Ruban)で一般的に通用しているそうだ。)
下に掲載した楽器の画像を見てわかるように鍵盤の手前下方にある黒い部分には音高の目印となる窪みと鋲(の頭)がある。窪みは白鍵、鋲は黒鍵に対応している。中央ドの位置の窪みに指の先を置く。この際リボンを少し自分の側に引っ張ることになるがリボンの張力はそんなに強くないので移動自体は軽い力でできる。
まず譜例2の音階を弾く。単純な音階だがこれが難しい。指が少し曲がってもピッチが低くなったり逆に高くなったりする。私は何故か指を左方向に曲げる癖があるようで、どうしてもピッチが低くなり勝ちなので指の形を強烈に意識していないときっちりした音程が出ない(この辺はヴァイオリンとよく似ている)。
また、指だけに力を入れた直線的な移動は良くないので手首で円弧を描くような感じで移動させるのだがなかなか定位置に決まらない。上行のあとは下降。原田先生が実際に身振りを交えて「自然の状態でも手を右に動かすのは比較的楽だが左側に動かす(戻す)にはエネルギーが要る」と仰ったがまさにその通りで、下降は一層難度が増す。上行の時とは逆方向に円弧を描きつつ移動させる。この段階で指にかなり力が入ってしまって手がガチガチになってしまった。
譜例2
アルペジオ
譜例3のようなアルペジオの練習。ここでは交互に移動の速度を変えなければならない。音符の間の線はポルタメントをかけつつ移動する事を示している。それ以外はポルタメントがかからないように(聞こえないように)瞬時に移動させる。原田先生は「ゆっくり」と仰るのだがどうしても急いでしまう。たった2オクターブのアルペジオだがこれだけでも至難の業である。尤も単純なスケールだけでも思うようにならないのだから当然といえば当然だ。
譜例3
もっと高度なアルペジオは譜例4のような感じである。小さい4分音符は近似値で、大体このくらいの高さの音という目安である。音価も譜例の通りではない。
最初の音(全音符)から次の音(全音符)に近い音(小さい4分音符)まで音量を下げ瞬時に移動し、その音(小さい4分音符)からポルタメントをかけて音量を元に戻しつつ(全音符へ)移動する。これの繰り返しである。
譜例のtoucheはボタンを押し込む感じを線で表したものである。線が上昇するほど音量が小さくなる。両手ともに、しっかりと考えて演奏しなければならないので大変難しい。こういう事は何度も繰り返し練習しながら体の感覚として覚えていかなければならないのだろうと思う。この奏法はCD等の録音を聴くと頻繁に使われていることがわかる。
譜例4
鍵盤奏法
鍵盤はフローティングされていて左右に指で揺らすことで微妙に音程が変化する。このメカニズムでビブラートをかけるのだがこの場合も手首を使って揺らす。揺らし方にもコツがあるようで、鍵盤に対して真横よりは若干斜め方向にしたほうがよい表現ができるそうである。これもやり方次第で様々な表情を表現することができる。また、キーボードのタッチで表情をつけるのはとりあえず御法度であくまでトゥッシュを使って表現しなければならないとのことであった。ピアノやMIDIキーボードに慣れているので、この辺の作法の違いには、かなり戸惑ってしまう。
一通り、基礎中の基礎の指導が終わった後、楽器を自由に触っていいことになり、いろいろ試してみた。鍵盤を弾いてみたがフローティングされているのを除けば、タッチ感は普通のシンセキーボードと大差なかった。勿論ヴェロシティー感知機能がないのでキーボードで音量は変えられない。従ってキーボードそのものだけでは全く弾きごたえがないのだが、トゥッシュを操作しながら弾くとまた違った感じがしてくる。うまく言えないが、おもしろい感覚である。鍵盤から指を離しても、次のキイを押すまでは、その音が保持(記憶?)されているのもおもしろい。
当日の受講生は私を含めて3人だった。一人は私と同様今回初めて受講された女性で、もう一人は既に長くやっておられる女性の方だった。その方はラフマニノフのヴォカリーズとバッハのフルートのためのパルティータからコレントを演奏されていた。バッハのコレントはフルートでつい最近やったばかりだったので、思わず持っていたフルートで吹きたくなってしまった。(笑)
講座の時間が終わりに近づき、生徒全員でオンドを片づける。原田先生曰く「電源が220ボルトなので感電に特に注意するように!」。本体に接続されているケーブル類を全て外し、キーボード部分を引き出すとあら不思議・・・、スタンド部分とキーボード部分が分離できる設計になっていた。特製ハードケースに収納し、ディフューザーもそれぞれ専用のソフトケースに収納、パルムは壊れやすそうなので特に慎重に・・・。原田先生の仰るとおりの順番に台車に乗せる。台車に乗らないオンドの抜け殻(スタンド)は手持ちで駐車場まで運ぶ。車のトランクに詰め込んで片づけ完了。何と運搬用台車も原田先生が持参されたものだった。ピアノなどと違って自分の楽器を運ばなければならないのは大変だ。ついつい自分の録音機材の運搬を思い出してしまった。生徒全員で原田先生が車で駐車場を後にするのを見送って全行程終了。
1ヶ月に1度だけの講座ではなかなか上達しないだろうから、自宅練習にはオンド型のアナログシンセコントローラー(French
Connection)でも手に入れないと・・・(笑)
※講座の内容を忘れないうちにと慌てて作ったページなので、落ち着いたら改変するかも知れません。(^^;
オンド・マルトノについての詳細はこちらへ。